スキヤキの話 その2 - 食べ物・料理・味の旅 - Dengon Net

スキヤキの話 その2

2006-07-02

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前号では、1「剥き焼き」説、2「杉焼き」説について話してみたが、今回は読者の皆さんからのアンケートでも圧倒的に多かった3「鋤焼き」説を話してみよう。

現代人のほとんどは、名前は聞いていても、農耕機具の鋤(すき)や鍬(くわ)がどのような物か知らないのではないだろうか。挿絵を見ていただきたい。鋤とは一般的にこの京鋤のことであって、あまり大きい物でなく、先の部分が鉄製になっている。

では、この農機具をどのように利用して、どのようにスキヤキを作ったのかを古い料理書や文献で調べてみる。

「唐すきを火の上にかけ、よく焼し時、油にてぬくひ、其上へ右之作りたる身を並べて焼なり」(『即席料理素人包丁』)、「古く遣いたるからすきを火の上に置く」(『料理早指南』)等々。この「唐すき」とは、添えられた絵を見ると、京鋤とはかなり異なり、最新ジェット機のような流線型の鉄の板である。

農業機器に詳しい人によると、「牛や馬に引かせる鋤で、本来は牛を利用するという意味で、『犂』という字が当てられた。昨今の農業は、耕耘機やトラクター、コンバインを使用し、農耕用の牛や馬も飼っていないのが現状なので、前記のような犂は製作さえされていない」そうである。確かにこの犂の上なら、具をのせて焼くのも可能であるが、タレが最小限しか入らないので、割り下で煮込むというより、むしろ焼く料理法であったといえる。

天保年間(江戸後期)の「鯨肉調味方」という書物の中に、「鋤焼とは、古き鋤のよく磨れて鮮明なるを熾火の上に置き渡し、それに切り肉をのせて焼くをいう。鋤に限らず鉄器のよく磨れて鮮明なるを用うべし」とある。新品よりもむしろ使い込んだ物の方が良かったのだろう。また、具も、魚から鳥の肉まで種々の食材が使われたようだ。

余談になるが、「鋤」の相方は「鍬」。そして「鍬焼」というのも料理や他の文献に登場する。「浮世床」で知られる江戸後期の戯作者式亭三馬の『古今百馬鹿』の文中に、「鴨の鍬焼を食はう。オット、鍬焼をくんな」とある。このように、農具の刃の部分を外してそれを鍋や鉄板の代わりにする習慣があった。京都に今でも、鍬で焼いた料理「御猟鍋」を食べさせる店がある。特製の鍬が火の上に置いてある。店主の談話では、「鎌倉時代に京都御所の公家衆が北山での狩りの帰途、農家で一服した際、狩りの獲物を食べようとしたが適当な鍋がなく、やむなく鍬で農夫スタイルの即席BBQをしたのが始まり」とのこと。狩りの場で食べたことからそう名付けられたそうだ。

同じように鉄板や陶板を使って材料を焼く「お狩り場焼き」というのも箱根の方にあった。

この鍬焼きも鴨に限らず、かしわ(鶏肉)、山鳥(鶉、鳩他)、魚肉、野菜など用いたようだ。以上が3鋤焼き説のいわれといえそうだ。