先月号迄のスキヤキの話、いかがでしたか。改めて掘り下げてみると、単純に思える事柄でも、結構奥深いものだ。今月は、そのスキヤキの主役である牛肉について、少し話してみたいと思う。
日本における昨今の食品関連ニュースでは、米国産牛肉の輸入再開が問題になっている
1986年、英国で確認された「狂牛病」(学名:牛海綿状脳症、BSE)がこの問題に起因している。
残念ながら、2001年に日本国内でもBSEに罹った牛が発見されたことにより、対策が強化された。最大輸入相手国の米国でもBSEに侵された牛が次々に見つかり、米国産牛肉の安全性が不確実として、日本ではその輸入が止められた。
それが昨年やっと再開されたのに、1ヶ月後には危険部位が混じっていたとまた輸入禁止となっていたが、今年8月再々開と相成った。しかし、一般消費者の反応となると賛否両論で、輸入再開を一概に喜んでいるとはいいがたい。一応、精肉部分、乳製品は安全であるといわれているが、骨の部分は要注意とされていて、輸出入双方の官民による管理体制の整備が問題となっている。
幸いにもここオーストラリアでは、BSEに罹った牛は確認されておらず、世界中でも安全性の高い肉との評価が出ているので、今後も日本への輸出は益々盛んになっていくと思われる。
BSE発生以前と比較すると、米国産牛肉の供給が現在では約四分の一になったとかで、その不足分が豪州産牛肉に振り替えられたことにより、日豪間がまた一歩近くなったようではある。その反面、豪州国内においては品不足による値段の高騰が起きてしまった。
外国人に日本の牛肉について問うと、「Yes, Kobe-beef is No.1」という答えがよく返ってくる。日本には神戸牛だけでなく、松阪を始めとし、各地に名産牛がたくさんあるのに、なぜか神戸ビーフの名だけが有名になっているようである。
以前シンガポールに住んでいたとき、ある商社が日本から牛肉を輸入していたが、他県産であるのにもかかわらず、その商品名は「神戸ビーフ」であった。なぜだろう?
一般的に生物は新鮮な方がおいしいと考えられているが、いくつかの例外もある。とくに肉は、「腐る寸前ぐらいがおいしい」といわれるように、牛・豚・鶏を問わず、しばらく置いた方がおいしい。
動物はその生命が終ると同時に死後硬直が起こり肉が硬くなるが、やがて時間を経ると硬直が解け熟成期へと移行し、それと共に肉が柔らかくなり、旨味も増してくる。言い換えれば熟成とはすなわち、腐敗の度合いなので、そのままにしておいたら完全に腐ってしまうが、その直前が美味の極点といわれている。
明治になって鎖国日本が終わりを告げ、外国船が多数寄港するようになる。それらはまず神戸港に入り、肉類を始めとする食糧を買い込み、横浜に向かった。横浜に着く頃には、神戸で買った牛肉の腐敗がほどよく進み、旨味が頂点に達していた。
これにより、外国船を中心に「神戸で買った牛国は旨い」という評判が横浜から東京に広がり、外国人によって「Kobe-beef、 Ichiban」という言葉が生まれたのだ。そして日本の牛肉イコール神戸ビーフとなっていったのである。
