いや、なかなか「揚げ」にかかれない。てんぷらの話“そのⅡ”でネタ(材料)を吟味し、“そのⅢ”では衣の溶き方・扱い方までいったのに、“そのⅣ”“そのⅤ”であたかも油漏れでもしているかのごとくに話が先に進めなかった。今回はなにがなんでも「揚げる」ことにする。
まずは、揚げ出す前に油を適温、もしくはやや高めに設定する。鍋はなるべく金属性で厚手、大きめのものがベターだ。天ぷら専門店では、材質としては鉄製・ステンレス製(中に保温剤を埋め込んであるものもある)・銅製(本当は銅、錫、亜鉛などの合金で抱金<ほうきん>鍋)などを用いる。厚手の方が保温力が強いからである。
ご家庭では、お手持ちのフライパンや中華鍋でも代用できる。鍋にはやや多めの油を入れる。いってみればラーメン丼のスープにしろ、風呂の湯にしろ、体積が大きければ、その分さめにくいはと同じことだ。
揚げるのに適した温度は170~180℃とされているが、一般の人が直接手を入れて測ることは大変危険だし、いちいち温度計を使うのも面倒くさい。簡単な調べ方としては、お手持ちの竹製の菜箸を油に沈め、箸の表面から小さな気泡が連続的に発生してきたらOK。
この状態を見極めるか、または溶いた衣を数滴油の中に落とし、衣が油面から1~2cm程沈んですぐ浮き上がってくるくらいが適温。温度計のついた揚げ箸も売っているようだが使用したことはないので、使い心地については定かでない。
ただし、揚げる温度は食材や状況により異なる。適温で揚げ始めていても、揚げているうちに油が熱くなり過ぎたり、温度が下がってしまったりする。とくに家庭の火力では、適温を保つことは難しい。大きな鍋や多めの油を使用するのは、冷めにくくするためだ。
また少しでも強めの火力を作るには、中国系の厨房器具屋で売っている中華料理用の五徳を使用すると効果的だし、火口の周囲をアルミホイルで包んだレンガで囲って、熱を放出させず火力を集約させることも一計である。
次は、油の中に入れていくネタ。一度にたくさんの量を入れると、油の温度が急速に下がる。火力の強さにもよるが、家庭用のガスコンロでは、油の表面積の半分ぐらいが限度と思われる。
最近では電気の天ぷらコンロもある。器具により異なるので一概にはいえないが、一般的にはガスよりやや多めの量に対応できるようだ。ともあれ、ときに応じて温度チェックをしながら揚げることを勧める。
天ぷら用の溶いた粉は流動状(液体)だが、熱い油と出合うと固形(固体)化する。しかし温度が高過ぎると、急速に固まり、衣の外側だけ焦げるが、内部には熱が伝わらず、グニャッとした衣になったり、ネタに火が通っていなかったりする。その反面、温度が低過ぎると衣が余分に油を吸収し、油っぽくべチャッとした感じに揚がり、味も良くない上に消化の点でも芳しくない。
天ぷらの薬味として、大根おろしとおろし生姜をよく使う。大根にはアミラーゼ(ジアスターゼともいう)というでんぷんと脂肪分の消化を助ける酵素が含まれているが、油を吸収し過ぎた天ぷらによる胸やけには到底及ばない。ついでにいうと、おろし生姜は風味のためで消化作用には関係ない。高級天ぷら店では、おろし生姜を提供しないところもある。 揚げているときにできる揚げ玉(関西でいう天カス)は、手まめに取り除くように。次のネタに附着すると味の低下になるし、油質の劣化につながるからだ。
