これからの日本食 - 食べ物・料理・味の旅 - Dengon Net

これからの日本食

2008-07-01

まず今月号の話を進める前に、読者の皆様方に心よりお詫び申し上げたいことがあります。

この伝言ネットが新聞形式を取り出した初刊号より、お目障り、お耳障りをさせていただきましたこの“料理 食べ物 味の旅”を一身上の都合により、しばらく休ませていただききます。勝手に始め勝手に終わるとお怒りをちょうだいするとは思いますが、お許しを願います。また長きに渡るご愛読に、厚く御礼を申し上げます。

と言う訳で、今月号は一時締めとして今後の海外における日本食が、どのような方向性を持っているかを考えてみる。

日本食調理師の世界から簡単に説明すると、昭和の頃から料理人の世界には相撲社会のような部屋制度があった。職人は部屋の親方に仕事を紹介してもらい、現場に赴き腕を奮っていた。もちろん、手間(賃金)や諸条件は、職人の経験や技量により異なっていた。戦後も形だけこのシステムは残存していたが、名称は○○部屋から、○○(会)調理師紹介所と変化し、代表者も親方から所長とか会長と変わり、言うなれば調理業界の派遣会社のごとくになった。しかしかつての部屋制度では、親方が仕事にあぶれた職人方の寝食の面倒まで見ていたので、親方は絶対的なものであり、部屋における先輩後輩の筋目は非常に厳しかった。

一度でも道を踏み外し、もし破門にでもなると、その部屋はおろか近隣の部屋からも相手にされなかった。同じ釜の飯を食った仲間は常に切磋琢磨し合い、お互いに技術の向上に心した。時が流れ、社会も仕事もグローバル化された現代では、料理人も技術を磨くより金儲けに走る人が多数を占めるようになってしまった。修行を始めた頃の職人気質に触れてみたいと思うのは、自分もついに時代の流れについて行けない老職人になったのかと感じさせられる。

しかし一方では、とんでもない勘違いや間違いも数多く見受けられる。

そもそも当地で日本食がブームになったのには、昨今の健康食ブームはもちろんだが、あのツーンと来る山葵の刺激も一因にあるのではと思っている。新鮮な魚だから生で食せる、それには山葵を使うがこれは辛い。こんな辛いものでも食べられるのはもう大人だからとアピールしているうち、何にでも山葵を用いるようになる。日本人には信じられないが、天麩羅、すき焼、照り焼きにまでも山葵をつけて食べる人がいる。刺身にガリをくれと言うお客様がよくいるのは、鮨と刺身を混同しているからだろう。

昨今流行りのハンドロールと、日本人がいう手巻き鮨とは理論上全く別のアイテムと考えれば無理もなくなるだろう。

最近ではほとんど見られなくなったが、かつては多くの店で、寄せ鍋を頼むとポン酢が出て来た。寄せ鍋系とちり鍋系の違いを、提供者も愛好者も理解していない人が多かったからだろう。

最後に、料理を提供する者として、いつも念頭に入れて置かねばならないのは、やはり「食への信頼」と「食の安全」である。昔から「医食同源」と言い、食物により健康を保持、改善できるが、逆に健康を害する場合も多々ある。この点を真摯に受け止め、食に対してより誠実にならなければいけない。人々の生活範囲も広がり、食材も食品管理も調理理論や技巧も益々多様化して行く。

日本食といえども世界の食料流通の一端、古くから伝わる技術、知識を駆使しつつ、新しい考え方も取り入れ、他の料理と競い合っていくようになるだろう。反面、他国の人々も日本料理をもっと勉強してくるだろう。日本食を紹介する方々には、日本を代表していると自負心を持って、表面を説明するだけではなく、その心をも教えて欲しいと思う。

老齢に至った職人からの望みである。

本当に長い間、ご愛読いただきましてありがとうございました。