今回もサブタイトルからは、はずれてしまうが、水質の違いと料飲法について話を進めてみよう。
フランスでワインがよく飲まれる理由
意外かもしれないが、日本のように水道の水がそのまま飲める国は少ないとか。文化度の発展途上の国や熱帯地方の水は、飲料水としては衛生上に問題がある。また、硬度の高いヨーロッパの水は、そのまま飲むには苦味が強過ぎる。
フランスでワインをよく飲むのもそのような理由からで、葡萄の木の中で美味しくなった水、即ち果汁を水替りに飲んでいるという訳だ。
お茶と水の関係
日本で飲まれているお茶は、水の中にタンニンを溶かして香りと味を楽しむもの。しかし、硬度が高いとタンニンの出が悪くなり、マグネシウムや鉄分が味を悪くする。そのため硬度の高い国では、お茶の代わりに味と香りの強いコーヒーが好んで飲まれている。英国で紅茶が飲まれているのは、そこがヨーロッパの中では比較的硬度が低いためである。
日本の茶道で用いられる水は、特に大切に扱われている。多くの家元や茶人は、自分専用の井戸をも持っている程だ。水差しから汲む時は上の方から、釜の湯は下からと決まっている。これは単なる作法というだけでなく、水差しでは底の沈殿物を汲まないように、釜では煮えたぎって上に上がった不純物を汲み取らないようにする物理的理由がある。
メルボルン在住の茶道家J裕子さんに伺ったところ、メルボルンの水は十分に日本のお茶に対応できるとのこと。でももし、一層美味しくしようと思ったら、前夜から一晩汲み置きしたり、その中に活性炭を投入したりするそうだ。しかし日本でも、最近はコーヒーがよく飲まれるようになってきたのは、水がまずくなってきたことと関係があるのだろうか?
水が変われば料理法も変わる
水質の違いは、料理法をも変えてしまう。素材の持ち味を生かした薄味が身上の日本料理は、やはり水の美味しさがあってこそできるもの。
硬度の高い水では、蛋白質を固くし味を落とすため、ワインや牛乳、生クリームなどでこってりしたソース作りをすることが多くなる。
西洋料理に欠かせないスープストックは、硬水を美味しくするための調理法。スープストックの材料である鶏・牛・豚などの骨には、コラーゲンという蛋白質が含まれていて、これを加熱してできたゼラチンが水の中のマグネシウムを取り除いてくれる。
素材が同じでも、水によって調理法は異なる。たとえば、日本では水で炊くお米も、ヨーロッパの水では美味しく炊けないので、油で炒め更にスープストックを加えて炊く(パエリア、リゾット、ピラフなど)。日本料理を”水の料理”、他の国のものを”油の料理”といわれている所以であろう。
日本ではたっぷりの水で茹でる野菜も、硬水だとゴリゴリになってしまう。しかしとある料理人は、さほど高くない硬水で素材を下湯でして、その旨味を内に閉じ込めてから、軟水で取った出し汁で煮るという料理法を時々行うといっている。すごい理論と実践だと思う。
結論としていえば、日本では世界各国の料理が作れるが、ヨーロッパで日本料理を美味しく作るのは難しいという訳である。
