関東・関西 味の違い その5 - 食べ物・料理・味の旅 - Dengon Net

関東・関西 味の違い その5

2006-01-01

前号までの話で水が料理に及ぼす影響を話してみたが、今回は話を本線に戻し、実際に水が関東・関西での味の違いにいかに関わるかを話してみよう。

以前、六甲や京都伏見の良質の水、またそれとは異なる関東(特に江戸)の水について述べた。ある機構が、東京の井戸水でも水質が優れているといわれているものを選び、京都大学の食糧科学研究所で水のミネラル成分とその波及性を重点的に調べてもらった。

実際に東京と京都の井戸水を飲み比べても、「利き水」のプロでない一般人には、その違いはよくわからない。強いていえば、京都の水の方が多少「軟らかい」ような気もするが、それは先入観がそう思わせているのかもしれない。

さて、研究所の分析結果によれば、やはり東京の水の方が「硬度」がやや高く、マグネシウムの含有量も高いため苦味が強い。この硬度の高い水でカツオ節からダシを取ると比較的よく出る。これはカツオ節の主要旨味成分イノシン酸がよく出るためである。

逆に関西の軟らかい水ではこの成分は出にくいが、昆布でダシを取ると、その旨味成分であるグルタミン酸は出やすい。水の硬度から関西の水は昆布向き、関東の水はカツオ節向きとなっている。

これを現場の料理人に立証して貰った記録もある。京都の丸山にある老舗料亭の「菊乃井」では、秀吉の正室北の政所-ねね殿がこよなく愛したと伝えられる名水「菊水井」を井戸から汲んで料理に使用している。

ここの厨房であえて関東の水を使って昆布ダシを取ったが、料理長曰く「関東の水の方が、ダシが出る迄に時間がかかるし、カツオ節を加えるとカツオ節と昆布のバランスにおいてカツオが勝ってしまい、京風の薄味には決してならない」とのことであった。

つまり関東の水では昆布ダシは取りづらく、そのために濃いめのダシを引くしかなかったのである。ダシが濃ければ、それに見合うだけの調味料が必要となる。ダシの臭みを消すためにも、濃口醤油が必要となる。

実はその醤油にも、水の影響は多々あるのだ。醤油の代表的産地は関東では千葉県の野田周辺、関西では兵庫県の龍野周辺である。この両地の水を比較してみると、揖保川の水がしみ込んだ龍野周辺の水は、関東の水に比べて鉄分が非常に少ない。

この水の中の鉄分濃度は醤油の色に大きく影響を及ぼす。鉄分濃度が少ない水だったがゆえに、龍野の醤油は薄口となり、関西地方ではこれが一般的になった。

関西の味が水に馴染み、水の恵みを受けることによって生まれてきたとすれば、関東の味は水の欠点を補うためにカツオ節を多く使って濃いめのダシを取り、そのために料理そのものの味も自然と濃くなってきたといえる。

京料理の代表的な豆腐や湯葉などは、京都の水と出会ってこそ生まれた日本の「味の文化」の逸品といえよう。「味の文化」と「水」は切っても切り離すことのできないものなのである。