
日本を離れてから「何か日本ぽいことを身につけておけばよかった」と思うことがよくある。しかも、意外性があって実際に役に立つマーシャル・アートなんてできたら素敵に違いないということで、今回は空手に挑戦! 数ある流派のなかでも最大の規模を誇る極真会館にお邪魔してきました。
健全な精神は健全な肉体に宿る
空手は、中国の武術が琉球に伝わり唐手として発達。その後、本土に渡り空手として開花、成熟し多数の流派が生まれた。現在は、試合で「寸止め制」を採用する伝統派と「直接打撃制」のフルコンタクト派に大きく分類することができる。
極真会館は、漫画や映画のモデルにもなった故大山倍達氏が創立者で、直接打撃制を最初に唱えた流派。そのため、対戦相手を打ち負かすために体を鍛え、技を磨いて強くなることを目的としているように見えるが、直接打撃制を提唱しているのは、実践的空手を通して相手の痛みを知るという理念から。
さらに、体はもちろん、礼儀作法、謙虚な態度、冷静な判断力など人間の内側の鍛練にもスポットをあてているのが特徴だ。道場での挨拶「押忍」には、 尊敬、感謝、忍耐という意味があり心身を錬磨すると同時に、伝統や礼節を重んじる極真会館の精神が表れている。
へなちょこな私でも大丈夫!?
武術はもちろんスポーツとも縁遠い私が体験して大丈夫なの? と恐る恐る道場に入っていく。明るく、ピカピカに磨かれた板張りの広々したスペースが目に飛びこんできてビックリ。しかも待ち合いのラウンジまである!
「この道場は、世界的にトップクラスの設備といっても過言ではないですよ」と香原先生。更衣室には男女共にシャワーがあり、なんと男性更衣室にはジャグジーまであるそうだ。
道場に様々な色の帯を締めた生徒が集まってきた。白、橙、青、黄、緑、茶、黒の順にレベルによって帯の色が違う。誰でも努力すれば黒帯になれるそうで、なにより「目標をもってがんばる姿勢」が大切だとか。やはり男性が多いが茶色の帯をした女性の姿も。
みんな、和気あいあいと雑談していたが、集合の掛け声と同時に引き締まった表情に。下半身を中心にストレッチした後、本格的な型の稽古。先生が突きと蹴りの型を手本で見せ、掛け声に合わせて体を動かす。様々なバリエーションがあり、回数を重ねるごとにジワジワ体温が上昇していく。


ひと通り型の稽古が終わると呼吸を整え、突きと蹴りを交えたコンビネーションの稽古が始まった。動きが激しく戸惑っていると、先生から簡略化した動きの支持がありひと安心。生徒それぞれのレベルを見ながら細かく指導してくれる。これなら、私でもついていけそう。
引き締めたい下半身や二の腕を使うので、エクササイズとしても申し分なさそうだ。額にうっすら汗が出てきたところで前半の稽古が終了。
いざというとき役に立つ
稽古の後半は、「対人稽古」と「組手」と呼ばれる次々と相手を変えて自由に技を掛けあう稽古。絶対無理! と逃げ腰の私だったが、実際に体験してみると、危険な場面に遭遇した時に役に立ちそうなことがたくさん。
稽古では試合を前提にしているが、突く、蹴る、受ける、捌く、崩す、廻る、相手の力を利用するなどの闘う疑似体験は、そのまま護身術として活かせそうだ。
直接打撃制だからより現実的で実践的。たとえば、後ろから肩をつかまれたら、つかまれた肩の方向に向きかえり、外側にある手で相手の肘を払い、それと同時に内側にある手の平底で思いっきり相手の顎を突き上げる。たいてい相手は、後ろに倒れるかひるむのでその隙に逃げることができるとか。小さなことでも、知っているのと知らないのでは大違い。

相手の動きをいち早く察知する観察力や集中力、一瞬にして動きを決める判断力も養われる。これは日常生活にも大いに役立ちそう。あっという間に90分の稽古が終了。最後に7つの道場訓を唱和し、一人ずつ先生に挨拶をして道場を後にする。ここでも礼の精神が表れている。
香原琢己先生。極真会館 参段。2003年4月メルボルンに空手指導員として赴任。
数々の日本国内・海外大会で優勝・入賞経験があり、彼の噂を聞きつけ、わざわざ遠方から道場に通う生徒もいる。