
「陶芸」と聞いて最初に頭に浮かぶのは、映画「ゴースト~ニューヨークの幻」で、可憐だったデミ・ムーアが轆轤を回すシーン。すべすべの粘土が手の中をくるくる回りながら形を成していく様子は、なんて甘美で創造的なのだろう。 今回は、日本の陶芸教室とはひとあじ違った、陶芸スタジオを訪れてみた。
“先生”ではない先生?
ジェニー先生の主宰するSakura Studio Pottersは、クレイトン・サウスにある非営利団体Clayton-Clarinda Arts Inc. のプログラムの一つ。静かな住宅街の中にある陶芸スタジオは、大きな窓に高い天井と、創作活動には欠かせない自然光もバッチリ入る。
三々五々に集まってきた生徒達は、誰も陶芸歴が長いので、みんな思い思いに自分の作品製作に取り掛かる。あっちで轆轤を回し、こっちで粘土を練り、そっちでコーヒーを飲み・・・と、まるで「授業」という感じではない。それもそのはずで、ジェニー先生も自分のことを「(気持ちとして)陶芸家であって先生ではないから」と笑う。
粘土は生きている
通常、一つの作品を作るのには、成形→削り→素焼き→釉薬塗り→本焼きと進み、その間に乾燥させる期間も必要なので、3週間ほどかかる。今回は体験取材ということで「まったくの初心者だけど、陶芸をした気分になりたい」と伝えてあったので、陶芸には欠かせない、そう、デミ・ムーアも映画で回していた轆轤を使っての成形に挑戦させてもらった。
♪オ~マァイラァヴ、マイダーリン~♪と、その前に粘土を練るのだが、これは粘土の中の空気を抜くのと小さな塊をなくすため。陶芸ではいちばん大切な工程で、熟達するのに10年かかるという。また、手で練ることにより、粘土に弾力性だけでなく生命まで与えるのだそうだ。

まずはジェニー先生のお手本から。粘土を轆轤台に乗せ、足元にあるペダルを踏みながら台の回転速度を調節する。最初はカマンベールチーズのような低い円柱形だった粘土の塊は、先生の手の中で、まさしく生命を与えられたようにどんどん高さを増していく。

それはまるで作り手である先生と粘土が協力し合って形作っているようでさえあり、「粘土は生き物で岩だったころの記憶もあるのよ」という先生の説に深く納得してしまう。
轆轤台と格闘
さて、いよいよ轆轤台に乗った粘土に挑戦。付き添ってくれたのは、生徒の一人、由希子さん。日本でも陶芸を学んでいたということだ。
手を水で濡らし、台の上の粘土を包み込むように押さえる。「はい、ペダルを踏んでください」。台が回り始めると、包み込むようになどという軟弱なことをしていると、あっという間に粘土はいびつな形になってくる。
「肘を体で支えるようにして手を固定してください」。腰から上、とくに肩から上腕部にかけて力を入れていないと手がぐらぐら動いてしまい、粘土もでこぼこ。♪オ~マァイラァヴ、マイダーリン~♪はどこへやら、粘土と格闘しながら、成形の基本である円柱形作りを目指すのだが、粘土はまるで思い通りの形になってくれない。
思い切って真ん中に穴を開ける作業に移ったものの、当初予定していた湯のみはどんどん口を広げ、結局は小ぶりの丼になってしまった。トホホホホ。
いつの間にかほかの生徒さんたちは、スタジオ裏手から摘んできたクローバーをあしらったり、粘土をコイル状に巻いて花瓶を作ったりと、それぞれが作品作りに没頭していた。
「日本の陶芸は練り方一つとっても厳しく、“陶器は使うもの”という考え方なので、持ちやすさや重さなど使い勝手を重視しますが、オーストラリアの陶器には“見て楽しむ”という要素も加わり、発想が日本より自由ですね」と由希子さん。そういえば、教室のモットーは「Forever Experimenting. We make Anything」。
手の中でくるくる回るすべすべの粘土の感触が・・・忘れられない習い事だ。

