



柔道、剣道に並び、今では国際大会も開かれるほどメジャーになった日本の武道“合気道”。ここメルボルンでも電話帳を開けば、様々な流派の合気道グループが名前を連ねている。子供の時に、ただ楽しいだけで習っていた頃の思い出は“技の美しさ”と“真冬の道場の寒さ”。20数年ぶりとなる今回は“昭道館合気道”を体験し、合気道の奥の深さを実感させられた。ついでに真夏の練習の暑さも・・・。
日本語の合図が響き渡る
David先生が指導するクラスは、Moonee ValleyのYMCA内にある体育館で毎週1回、夜8時から開かれている。前の器械体操のクラスが終わるのを待ち、体育館へ移動するが、畳はどこにも見当たらない。
生徒達はDavid先生が担いできた巨大なスポーツバックからキャンバス地の布の固まりを取り出すと、体育館中央にある畳40枚分ほどのカーペットの上一面に広げ、即席道場の出来上がり。
みんなで道場中央に丸く広がり、まずは準備運動から。と、その前に、いつの間に設置されたのか、壁の棚の上には額入りの写真が。
「トミキ先生に礼!」
写真のその人は、富木謙治師範。日本合気道協会設立者で、その中央道場である昭道館を開設した武道家だ。
再び円内に体を向けると、手首、肩、腕、足首、膝、背中、首など、関節を重点的に丹念にストレッチの開始。ほどよく汗ばんできた頃、攻撃をかわすための歩き方、続いて手刀合わせ、合掌受け、掌手合わせなど、合気道の重要かつ基本動作を練習する。
先生の実演中、生徒は正座をして見守り、2人組での稽古は「お願いします」で始まり、「ありがとうございました」で終わる。“道場”への出入りにも、みんな必ず一礼。「始め!」「止めっ!」と、師範の発する日本語が広い体育館内に響き渡る。
試合をしない武道
合気道は大東流合気柔術を元とする、昭和になって確立された現代武道で、一般的に試合は行わず、形を重視した稽古方法を取っている。これは“取り”(技をかける側)と“受け”(技をかけられる側)がお互いにどんな技を使うか、了解しているということ。
本質的には力による争いや勝敗を否定し、技を通じて自分を精進させていくことを目的としていることから、習得するには時間がかかる武道といわれている。
ここに「当身技」(攻撃すること)と「関節技」による乱取稽古、競技化(試合で勝敗を決める)を加えたのが、今回取材した昭道館の流派だ。
「まず基本を習得し応用していきます。より良い姿勢・動き・バランスの崩し方に重点を置き、Strength(力)こそが、この流派の特長です」。自分の実力には嘘がつけないからこそ、稽古を積んで強くなっていくのだという。
合気道人気の秘密は?
David先生の本業は高校の先生。長年、ビクトリア大学で行われていた合気道クラブで他の先生と教えていたが、そこが閉鎖したため、昨年10月から現在の場所で指導するようになったという。
「合気道は自分にとって、健康と精神などのバランスを保ち、アクティブにしてくれます。また、動作が心地いいんです。そんな気持ちを他の人達にも与えてあげたくて、指導にあたっています」と、David先生。
「日本の武道には、あいさつに始まり、上下関係などの独特のマナーや習慣があるので、合気道そのものよりも、これらを外国人に教えることの方が難しいですね」。日本の文化と武道は決して切り離すことはできないというが、それがまた、昨今の海外での合気道人気の秘密かもしれないとも。
昭道館の3つの要素である、“形”、“セルフディフェンス”と進み、最後は“スポーツ(競技)”として、かかり稽古、引き立て稽古、乱取り稽古で、あっという間に2時間が過ぎていた。20数年前に味わった楽しさが、当時道場に漂っていた稽古着と汗が混ざった懐かしいニオイと共にようやく蘇ってきたというのに。
そして、最後はもちろん富木先生とお互いに礼をして終了。 David先生にとって、2009年の日本での国際大会に向けて、一人でも多くの生徒を送り出すのが当座の目標だそうだ。

