
40歳以上の年代の人達の、子供の頃の習い事の定番といえば、そろばんか習字だった記憶がある。冬休みの書き初めの宿題を、1月の始業式の前の晩に慌てて書いたのも、今となっては良い思い出だ。今回は、中学校卒業以来触ったことすらなかった筆を握り締め、懐かしい墨の香りに日本を思い出しながら、書道を体験してみた。
郷愁を誘う墨の香り
八廣先生の教室は、KewのCotham Rd. High St.更に Glenferrie Rd. を通るトラムを降りて数分という、非常に便利な場所にある。
9月に開講したばかりで、現在の生徒は5歳から50代までの計4人。この日は高校生のレッスンに参加させてもらった。
午後の太陽がちょうど良い明るさで入り込む、モダンな白い壁と白いテーブルは、小学生の頃に通っていた、ビニール製のゴザを敷き詰めた公民館の集会場のような教室とは、まるで違う。「墨を使うのに、こんなに白くて大丈夫ですか?」と老婆心ながらに思ってしまう。
時間通りにやって来た生徒さん。まずは家で練習してきたという、ペン字の添削から。“早朝の一時/は黄金より/高価である”…。1枚のコピー用紙に4回ずつ練習した3つのフレーズを、一文字一文字丁寧に直していく。先生は指導する立場だというのに、決して先生口調にはならず、一貫して丁寧語で話しているのがとても印象的だ。
「今日は何を書きましょうか?」。

ペン字の添削が終わったところで、次は毛筆の練習だが、書きたい文字は生徒自身で選ばせてくれる。
一緒に上手になっていきましょう
高校生が“冬眠”と書く横で、“北風”に挑戦。硯と墨が見当たらないと思ったら、「実用書道なので、墨を磨りながら心を云々というようなことはしないんですよ」と言いながら、自作の雲月硯(うんげつけん)に墨汁を注いでくれる。墨の良い香りが郷愁を誘う。
お隣はすでに1枚書き終わり、先生に朱を入れてもらっている。先生に言われたように筆にたっぷりと墨を含ませるも、妙に緊張してしまって、どこから書き始めて良いやら、半紙がやたらと大きく感じる。なにしろ中学生以来の書道。
本当に“寒い”北風が書き上がり、朱をいれていただいて2枚目に挑戦。先生のアドバイスを心して書いたためか、1枚目よりは少しだけ温かみのある北風が完成した。
高校生は最後に、先生と一緒に筆を持って、その運び方を習得中。力を入れたり、方向を変えたり、早く、遅くを身体で覚えていく。こんなにきめ細かに教えてもらえるのも、少人数制ならではの利点と納得。

途中、角の筆運びを説明しながら、ファイルを取り出して開くと、中身は朱で書かれた文字でいっぱい。教える立場になってからも、疑問点は書潮社の師範格を持つ更なる先生に教えを請うという勉強ぶり。しかもその加藤師範からの指導内容も生徒に見せ、“一緒に上手になっていきましょう”という姿勢が、書道をぐっと身近なものに感じさせてくれる。
クラスは基本的には、幼児から小中学生を対象としており、ペン字の場合、子供には書き順の勉強も含めて指導してくれる。大人には課題の朱入れ3枚の他、時間内で書く細字の指導をしてくれる。 外国人にとって“書はアート”
「書道をしたいけれど道具がないからできないという人に、書に触れる機会を提供できればと思って教室を始めました」と話す八廣先生。
先生は、小学生の頃から書道を始め、一旦は止めたものの、20歳で再び始めたのが、現在所属し、メルボルン支部として開設した書道協会で、教育書道を主とする「書潮社」だ。
書道は、1998年にオーストラリアに来るまで続けていたそうで、2000年に大学でセラミックの勉強をした時も、作品の図柄にはもっぱら“書”を取り入れ、周囲から高く評価されたという。それが元で、デザインを勉強中の友達からドレスに文字を書いて欲しいと頼まれた。
「オーストラリア人にとって、書は文字ではなくてアートなんだなって気が付いたんです」。そこで、2001年にセントキルダのマーケットに出店し、英語の名前を聞き、その場で漢字の当て字を書き、売るようになった。以来6年間、外国人が自分の作品を見て心が和むと言ってくれるのが嬉しくて、出店を続けている。
日本よりもずっと気軽に
指導内容は生徒の目的によって異なり、あくまで字が上手になりたい、という人には自分の好きな字を好きなように書かせて添削する。一方、書潮社の昇級、昇段を目指す人は、日本の書潮社に入会し、毎月日本へ送る競書課題を中心に指導していく。
「字がきれいになりたかったし、オーストラリアに来てからだんだん漢字が書けなくなってしまったので通い始めました」と話してくれたのは、一緒に指導を受けた高校生。好きな時間に練習できるのが良いという。小学生の頃は大嫌いだった習字の時間も、今では心和む休憩の時間で、墨の香りは落ち着くそうだ。
「生徒が上達していく様子を見ているのが楽しいですね。上手に書けたという喜びを提供していくことにやり甲斐を感じます」という先生にとって、練習すればしただけ上手になるという点で、セラミックも書道も同じ…ということだ。
現在は日本人だけを対象としているが、将来はローカルの人だけのクラスも作りたいとのこと。「一つのクラス内で日本語と英語で教えていたら、生徒さんも混乱してしまいそうですしね」と先生。 初心者から上級者まで、特に、これまで書道に興味はありながらも、オーストラリアでは道具の調達がネックで始められなかった人達に、気軽に体験して欲しいという。
「1ヶ月ほど、こちらで用意した道具を使ってみて、続けたいと思ったら購入すればいいんです。墨汁も筆も半紙もメルボルンで簡単に手に入るんですよ」。
日本で習うよりも、より気軽でより丁寧、しかもより楽しめそうな習い事だと思う。 大嫌いだった習字の時間も、今では心和む休憩の時間で、墨の香りは落ち着くそうだ。
「生徒が上達していく様子を見ているのが楽しいですね。上手に書けたという喜びを提供していくことにやり甲斐を感じます」という先生にとって、練習すればしただけ上手になるという点で、セラミックも書道も同じ…ということだ。
現在は日本人だけを対象としているが、将来はローカルの人だけのクラスも作りたいとのこと。「一つのクラス内で日本語と英語で教えていたら、生徒さんも混乱してしまいそうですしね」と先生。
初心者から上級者まで、特に、これまで書道に興味はありながらも、オーストラリアでは道具の調達がネックで始められなかった人達に、気軽に体験して欲しいという。
「1ヶ月ほど、こちらで用意した道具を使ってみて、続けたいと思ったら購入すればいいんです。墨汁も筆も半紙もメルボルンで簡単に手に入るんですよ」。
日本で習うよりも、より気軽でより丁寧、しかもより楽しめそうな習い事だと思う。

